【 第五部 「ともしび」遺詠 】
工場の片流れ屋根十あまり街の灯に映え白く光れり
隣接の工場冬の夜をこめて鉄のパイプを転ばす音す
恵那ここの落葉松林こまかなる葉に零しつぐ昨夜の時雨を
オーロラの天降る天女か吹くならんま白きエンゼルトランペット揺る
孫の佳世テスト終へしと見舞に来 シシ座・白鳥・メディウス語る
一枚の平な紙にもどれない 病魔が握る紙つぶて吾
死に近き母よりかすか糸電話ありしと思ふこの病床に
息喘ぎ心臓をどり吾がせし臨死体験 白き花散る
芙美子詠む暖き島蓬莱のまぼろしに見えは た杳きかな